2022-02-07-Mon

デザイン美術学科 げいたん発『空飛ぶ茶室』プロジェクト

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藤森照信氏と学生たちが生み出した奇想天外なモニュメント!
げいたん発『空飛ぶ茶室』プロジェクト

2022年2月、大阪芸術大学短期大学部の伊丹キャンパスに『空飛ぶ茶室』が誕生しました。このユニークなモニュメントは、着想から約1年半以上をかけて完成した大阪芸術大学短期大学部の渾身のプロジェクトです、「なぜ、キャンパスに茶室?」「なぜ空中に浮かんでいるのか?」「中はどうなっているのか?」……おそらく多くの人の頭には無数の「疑問」が浮かぶでしょう。その「疑問」を解くために、完成までのプロセスをたどってみましょう。

大阪芸術大学短期大学部の新たなシンボル!
学生たちの創作意欲を高める
アートなモニュメント。

芸術を学ぶ学生たちは、いわばアーティストの卵。キャンパスの中に学生たちの感性を刺激するアート作品をつくり、創作活動を応援したい---------その思いのもとに、デザイン美術学科の松井桂三学科長が東京大学名誉教授で建築家の藤森照信氏の作品を提案。藤森氏が「大学に茶室をつくるのは初めての試み。学生たちの役に立てばうれしい」と、プロジェクトがスタートしました。大阪芸術大学短期大学部の伊丹キャンパスに現地視察に訪れたところ「樹木や芝生がていねいに手入れされ、緑がイキイキと輝いている。こんなすばらしい環境の大学はめったにありませんね」と、とても気に入ってくださったようです。

藤森照信氏プロフィール

1946年生まれ。建築家。東京大学名誉教授。東京都江戸東京博物館館長。建築史研究を行った後に、90年代より建築家として活動。1997年「ニラハウス」で日本芸術大賞を受賞。以後受賞多数。茶室への深い造詣を持ち、自身の故郷である長野県茅野市に木の上の茶室「高過庵」を建築。自然と調和したユニークな茶室を数多く生み出している。

特別授業として
学生たちもプロジェクトの一員に。

なによりこの試みが画期的なのは、完成までのプロセスを「特別講義」とし、学生たちが藤森氏の教えを仰ぎながら『空飛ぶ茶室』の建築に参加したこと。藤森流の茶室は、さまざまなアートの要素を取り入れた唯一無二のクリエイティブな空間。建築に使う素材のすべてがオリジナルにこだわります。工芸・立体デザインコースと空間演出デザインコースの学生たちが参加し、めったに得られない貴重な「ものづくり」の現場を体験しました。

焼杉制作

焼杉の外壁は西日本に多く見られる伝統的な建築材です。重ねた長い杉板を立てかけて着火すると、もくもくと煙が出て、立ち上った大きな炎に包まれます。その迫力ある光景に、学生たちは驚きの表情。それでも誰もが職人さんになった気分で、炎と格闘しながら焼杉を作り上げました。「こんなに燃え上がった木を見るのは初めて!」黒く光った焼杉を見て、学生たちは大感激。

漆喰を塗る

内装の壁は、昔から城や神社、蔵などに使われている漆喰を使います。塗り重ねた時の質感で、味のある雰囲気になり、懐かしさが漂います。漆喰を壁に塗り付けて、コテで平たく伸ばしていきますが、さすが美術系の学生だけに塗るのはお手のもの。伸ばした跡の風合いも考えて、手の動きもすばやく、塗り残しがないようにていねいに塗り重ねていきます。

銅板の屋根制作

銅板を波型に折り曲げ、たたいていく鍛金作業。銅板を何枚も貼付けて、屋根を完成させます。それはすべて学生たちの手作業の賜物。波の角度ひとつにも気を遣いながらていねいに仕上げていきます。

丸太(支柱)削り

長野県から到着した、ひのきの丸太の表面を鎌で削る作業。この2本の丸太が茶室を支える柱となります。丸太を見るのも、削るのも、鎌を使うのももちろん初めて。みんな「まるで大工さんの気分!」と、一心不乱に削りますが、削っても削ってもまだ削り足らないような…。削った跡の後片付けまで一致団結で行いました。

ガラス制作

内装空間を彩る色とりどりのガラスは、芸短自慢の高性能ガラス炉で製作。さらにガラスの角を丸くする技術を取り入れて、ガラスの破片を安全な形に整えました。壁や天井などに、学生たちが思い思いにガラス片を貼り付け、ファンタジックなアート空間に。「さすが美術系の学生たちは、センスがいいですね」と藤森先生からもお褒めの言葉をいただきました。

春夏秋冬と季節の変化とともに、さまざまな作業に熱心に取り組む学生たち。自分たちの作業がない時も、刻々と施工が進んで完成に近づいていく姿をしっかりと見守ります。完成後は学生たちの授業にも活用されるため、盤石な基礎工事で安全を確保。2本の柱が支える空中の茶室は、不安定に見えて、実は細部に至るまで綿密に設計されています。

藤森照信氏に一問一答

Q:茶室に惹かれるのはどうしてですか。

A:茶室というのは日本建築の原型というふうに思っています。狭い空間の中に、建築のあらゆる要素が含まれている。にじり口があり、窓があり、光が射し、装飾性があり、火を扱う。閉じた茶室は外界から切り離された別世界で、そこから眺める風景は日常とは異なるものです。日本固有の文化だと思います。

Q:「空飛ぶ茶室」を設計する時に大切にされたことは?

A:伊丹キャンパスを訪れた時に、樹木がイキイキと美しく、この環境を壊してはいけないと思いました。周りの自然を引き立てつつ、しかしくっきりとした存在感がなければいけない。そのためには空中に浮かぶ茶室がいいと考えました。外観に黒を選んだ理由は、ベーシックでありながら、強い個性を持った独特の色だから。特に焼杉の墨色は意外に自然と調和するんですね。焼杉は関西以西の建材で、関東にはありません。そんなところからも焼杉にこだわりました。

Q:茶室の中はどのように設計されましたか?

A:面積は茶聖と呼ばれる千利休がつくった京都の茶室「待庵」に習い、たたみ三畳の広さとしました。建物の性格上、火を入れることは無理ですが、茶道具も置いてみました。壁に散らせた色ガラスは当初の計画にはなく、学校にガラス炉が完備され、ガラス工芸の授業があると聞いて制作を思いついたものです。和紙に色ガラスを散らした窓は、光が入るとキラキラと美しい。想像以上に良い感じに仕上がって、とても気に入っています」

大阪芸術大学短期大学部
松澤剛准教授コメント

アートやデザインを学ぶ学生にとって、建築界の第一人者である藤森照信先生の授業は宝物のような貴重な体験です。しかも毎回の授業で学ぶのは初めてのことばかり。焼杉にしても丸太刷りにしても、おそらく二度とない体験でしょう。自分たちがつくる素材で作品を完成させていく、そこには多くの発見や喜びがあったと思います。「空飛ぶ茶室」に取り組んだ日々は、教員の私たちにとっても実りの多いものでした。

2022年2月7日
『空飛ぶ茶室』完成記念セレモニー

晴れ渡る空の下、藤森照信先生、塚本英邦学長、松井桂三学科長をはじめ、学校関係者が列席のもと、『空飛ぶ茶室』の完成記念セレモニーが行われました。メディアからの取材も受け、大阪芸術大学短期大学部の新たなシンボルとして広く告知されました。

  • テープカット
  • 塚本学長のあいさつ

藤森先生のあいさつ
大阪芸術大学短期大学部のアートを象徴する作品として、学生はもちろん、訪れる多くの方々の感性を揺さぶる『空飛ぶ茶室』。藤森照信氏のすばらしいアイデアと設計のもと、学生たち自身がさまざまな制作に取り組んでともに完成させたところに大きな意義があります。今後の授業で教材としても活用される予定です。